鳥取県岩美町大羽尾の勧学寺に少し記載したように、羽尾地区には狸(狐)の悪事による物語が村民の山口義則さんより伝承されていて、その3つの話を掲載します。
山口義則さんが話されたのは平成13年(2001年)で当時86歳でした
今から70年くらい前(1930年頃・山口さんが16歳の頃)実際に見た話です。
村に何の仕事もしていない、ただぽかんとして立っている老人がいました。少し高いところに手に水汲み用の柄杓をもって建っていましたが、私(山口さん)はその姿が大変面白いので少し離れて見ていました。
道を歩いて通る人がやってくると、老人は時々手に持った柄杓を振って、ポカンポカンと頭を叩いてただ笑っているのです。
この老人はかつて、漁師でした。ある日、延縄の釣り針につける餌を獲りに、いつものように長い竹筒を肩にかけて岩場に出ました。『ウド』という虫で、船虫と呼ばれています。この虫は岩場で群をなして素早く走り回り、人の気配がすると岩の割れ目に奥深く逃げ込むので、その岩の割れ目を煙でいぶして外に追い出し、その時に捕まえるのです。
捕まえた船虫は背中に掛けた竹筒の中に入れて持ち帰るのですが、歩くたびに身体が動くのでその竹筒がブランブランして岩の角に当たるのです。
その時のカーン、カーンという高い音が丸山(現在灯台がある円山の事だと思われます)に住む狸がとても嫌がり、何度も何度もカーンカーンと鳴らす上に時折ひどく高い音を鳴らすことにとうとう狸が腹を立てて、この漁師に憑りつきました。
狸はちょっとだけからかってやろうといたずら気分で憑りついたのですが、薬が効きすぎたのか、それ以来この漁師は柄杓をもって立つようになったというのです。その異常な行動を見てこの漁師の家族が『法華経』の家の人に頼んで拝んでもらったのですが、3年程病は続き、死んでしまったそうです。
大羽尾には今でも狸は沢山いますが、人を化かすことを聞かないようになりました。
村民山口義則さんのお話その2です。1と同じく70年以上前の夜中12時頃の出来事だそうです。
Aさんは連れと飲んでいて途中ちょっと小便のために外に出て、戻ってきたときには狐が憑いていました。一緒に飲んでいた仲間たちが変だ変だ!と言い出し、羽尾の法華経を信仰する人に拝んでもらったところ
私は小磯の上の百六つになる狸である!
というので、
なんでお前は人間に憑いたのか?
と尋ねると
住処にしている穴の口が影になる松の木を伐採されて、その為、雨が穴の中に入り込んできて冷たくて眠れない!腹が立って腹が立って仕方がない!逃げてやるから小豆飯と油揚げ3つを今夜から7日間田城の木ぐまのあるところに持ってこい!
といったそうです。向こうの島(丸山)には百八つになる兄貴狸もいてこちらの百六つの狸と連絡しているのを見た人もあるという事です。
信じるか信じないかは…